東京地方裁判所 平成5年(ワ)398号 判決 1994年7月27日
原告
渡辺秀央こと渡辺秀雄
右訴訟代理人弁護士
下井善廣
同
大室征男
同
関根靖弘
被告
株式会社毎日新聞社
右代表者代表取締役
小池唯夫
右訴訟代理人弁護士
河村貢
同
豊泉貫太郎
同
岡野谷知広
主文
一 被告は、原告に対し、金一五〇万円及び内金一〇〇万円に対する平成四年九月一七日から、内金五〇万円に対する同年一二月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、別紙一記載の謝罪広告を、被告の発行する毎日新聞に掲載せよ。
二 被告は、原告に対し、金五〇〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する平成四年九月一七日から、内金二〇〇〇万円に対する同年一二月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、被告の発行する新聞紙に掲載された後記各記事(以下「本件各記事」という。)によって、名誉を毀損されたと主張する原告が、被告に対し、不法行為に基づき謝罪広告及び損害賠償を請求する事件である。
二 争いのない事実等
1 原告は、昭和五一年の衆議院議員総選挙において、新潟第三区から立候補して当選し、以後連続六回当選をなして衆議院議員を務め、平成三年には郵政大臣に就任した(甲六)。
2 被告は、新聞発行を業とする株式会社であり、全国紙「毎日新聞」を発行している。
3 被告は、平成四年九月一七日付「毎日新聞」朝刊の第一面(一頁)に「『2億円は渡辺郵政相側に』」「新潟県知事選・佐川献金」「金子陣営幹部に渡辺元社長明かす」「規正法違反の疑いも」との見出しを挙げて別紙二記載の記事(甲一、以下「第一の記事」という。)を掲載し、同年一二月一九日付「毎日新聞」朝刊のいわゆる社会面(二七頁)に「佐川3億円献金」「『2億円は渡辺郵政相預かり』」「金子前知事、関係者にもらす」「国会では関与否定深まるナゾ21日初公判」との見出しを挙げて別紙三記載の記事(甲二、以下「第二の記事」という。)を掲載した。
4 本件各記事は、いずれも、平成元年六月の新潟県知事選挙に絡み、佐川急便グループから三億円の献金がされ、そのうちの二億円(以下「本件二億円」という。)を原告側が受領又は預かったとする疑いがあるとする記事であるが、本件各記事とともに、原告本人あるいは原告の秘書の右報道内容を否定するコメントも掲載している。
三 原告の主張
1 本件各記事は、いずれも各見出しとあいまって、原告が佐川急便グループからの違法な献金に関与し、政治資金規正法違反の嫌疑が存すると読者に思わせるものである。
2 原告は、新潟知事選に関する佐川急便グループからの献金に関与した事実は全くなく、本件各記事は事実無根の報道である。被告は、本件各記事の掲載により、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を著しく毀損した。また、被告は、編集者や取材記者を使用するものとして、これらを監督し、真実の報道をすべき義務があるのにこれを怠った。よって、被告は民法七〇九条、七一五条の不法行為責任を負う。
3 原告は、被告に対し、第一の記事の報道後、平成四年九月一七日付内容証明郵便で前記献金への関与を否定し、記事の訂正を申し入れているにもかかわらず、被告は、右申し入れに何の回答もせず、第二の記事を掲載した。
4 原告の被った精神的損害は測り知れず、金銭で慰謝し得ないものもある。
5 よって、原告は被告に対し、名誉回復の一方法として、別紙一記載の謝罪広告の掲載を求めるとともに、慰謝料として、第一の記事につき三〇〇〇万円、第二の記事につき二〇〇〇万円及び各記事の掲載日から各損害賠償金について年五分の遅延損害金の支払いも求める。
四 被告の主張
1 本件各記事は公共の利害に関するものであり、かつ専ら公益を図る目的に出たものである。
2 本件各記事の内容は真実であり、仮に真実でないとしても、被告において真実と信じることにつき相当の理由があり、過失はなかった。
五 争点
1 本件各記事は真実か。仮に真実でないとして、真実と信じたことに相当性があるか。
2 原告が本件各記事の掲載によって被った損害を回復するためには謝罪広告を必要とするか。
3 原告が本件各記事の掲載によって被った損害額
第三 争点に対する判断
一 本件各記事の真実性、真実と信じたことの相当性
1 本件各記事の内容
本件各記事は、いずれも本件二億円につき原告が関与していたことを報道するものである。このうち第一の記事は、渡辺広康元東京佐川急便株式会社社長(以下「渡辺元社長」という。)が本件二億円を「原告側に渡した」と金子前知事陣営の幹部に話していたことが分かったということを主な内容としており、第二の記事は、金子前知事が「三億円の献金のうち二億円は原告が預かることで話が決まっていた」と関係者に話していたことが明らかになったということを主な内容としている。しかし、本件各記事の前記見出し、右内容等を総合すれば、原告側の報道内容を全面的に否定するコメントを併せて掲載してあるとしても、本件各記事は全体として、単に渡辺元社長又は金子前知事が右のように話していたということにとどまらず、本件二億円が原告に渡されたことが事実であり、原告に政治資金規正法違反の嫌疑があるとの印象を一般読者に抱かせるものである。
したがって、本件各記事は、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものと認められる。
2 事実の公共性、目的の公益性
本件各記事掲載当時原告は、現職の国務大臣、国会議員であり、本件各記事は、原告が新潟知事選に絡む佐川急便グループからの違法な献金に関与していたというものであるから、その内容が公共の利害に関するものであることは明らかであるし、被告のもつ報道機関の社会的使命に照らせば、専ら、公益を図る目的に出たものである(争いがない。)。
3 真実性の証明
本件各記事の主要部分は、本件二億円が原告に渡されたということであり、この点につき真実性の証明があるか否かを検討する。
右の点に関する被告の取材経緯等に関する証人三浦等の証言は、後記4(一)において判示するとおりであるところ、被告の記事は、本件各記事中で本件二億円が原告に渡された旨を語ったとされる渡辺元社長や金子前知事、あるいは同人らが語った相手方とされる金子前知事陣営の幹部や関係者を直接取材したわけではなく、取材内容は伝聞であり、花谷寿人記者(以下「花谷記者」という。)、小泉敬太記者(以下「小泉記者」という。)らが、各取材源から聞いたという二億円授受の具体的状況も明らかではない上、右取材源も具体的に明らかにされていない以上、右取材源から得られた情報から直ちに原告に本件二億円が渡されたことが真実であるとの証明がされたとはいえない。
なお、証人三浦正己の証言によれば、原告の元秘書(以下「元秘書」という。)と後援会幹部一名が東京地検特捜部の事情聴取を受けたことは認められるが、両人とも、取り調べに対して当時のことは分からないと答えたということであるので、これは、被告の記者の取材結果が真実であることの裏付けとはならない。他に被告の記者の取材結果の真実性を裏付ける証拠もない。
一方、乙九、三一、四一ないし四三によれば、平成四年一一月三〇日、法務省刑事局長は、衆議院予算委員会において、本件二億円について必要な捜査を行ったが、政治資金規正法違反等の嫌疑ありとして訴追するに足る事実は確認できなかったと報告したほか、その後も本件二億円の受領者について捜査当局が公式にこれを確認したことはないことが認められる。
以上によれば、本件二億円が原告に渡されたという本件各記事の主要な部分について、真実であることの証明はないと言わざるを得ない。
4 真実と信ずるに足る相当の理由の存否
(一) 証人三浦、同花谷寿人、同小泉敬太の証言するところによれば、本件各記事の掲載に至る経緯等は、次のとおりであったというのである。
(1) 平成四年九月当時、平成元年に行われた新潟知事選に絡み、佐川急便グループから金子前知事の陣営向けに調達されたという三億円のうち、一億円を金子陣営が受け取ったとされたが、残りの本件二億円の行方については、未解明であり、この点につき捜査当局の捜査が続けられ、報道陣も注目していた。渡辺元社長は、捜査当局の取り調べに対し、当初、本件二億円の行方について、新潟県選出の故長谷川信参議院議員(以下「故長谷川議員」という。)に渡した旨供述したとされたが、遺族らは受け取りの事実を強く否定し、故長谷川議員の健康状態、日程等当時の状況から、故長谷川議員が右金銭の授受に介在した可能性は薄いと見られるに至った。
(2) 東京地検特捜部は、平成四年九月初めころ、本件二億円について、原告の元秘書らを参考人として事情聴取した。
(3) 九月一四日、NHKの午後七時のニュースで本件二億円の授受に現職の国会議員が関与している疑いがあるとの報道が流れた。被告には、花谷記者、小泉記者の各取材から本件二億円は原告に渡ったらしいという情報が入った。
花谷記者の取材源は、普段恒常的に取材をしている検察当局ないしその関係者であり、花谷記者に対し、本件二億円は原告に渡ったと見ている、原告は渡辺元社長のことを兄貴と呼んでいる、新潟の捜査では知事以外に事件になるとしたら原告の政治資金規正法違反くらいである、金子前知事は本件二億円に関しては知らないと言っていたと話した。
小泉記者の取材源は、東京佐川急便関係者であり、小泉記者が九月一四日午後一〇時すぎ、その取材源の自宅前の路上で取材し、NHKの現職の国会議員が関与しているとの報道について、これは原告のことで間違いないか尋ねたところ、本件二億円が原告のところに行っているのは間違いなく、渡辺元社長のところに原告が取りにきたという情報を得た。
(4) 九月一六日の夜、被告の記者は原告本人を取材したが、原告は自分は関係ないと関与を否定した。一方で、花谷記者、堀内記者から次のような情報が入った。花谷記者は前と同じ取材源から、金子前知事が取り調べに対し、渡辺元社長は金子前知事の問い合わせに対して本件二億円を原告に渡したと言ったと供述しているという情報を得た。堀内記者は、元秘書を取材し、元秘書は、東京地検特捜部の事情聴取を九月初めに受けたこと、そして、検事に対して、平成元年当時のことは自分は分からないと答えたと述べた。
(5) 九月一七日、第一の記事が掲載され、原告から、被告に対し、内容証明郵便で抗議がされた。
(6) 九月一八日、原告が否定の記者会見を行った。その夜、小泉記者が前と同じ取材源に、原告から抗議があった話を伝えると、事実であるから放っておけばよいといわれた。
(7) 九月末から一〇月にかけて、花谷記者は、前と同じ取材源に対する取材を継続し、その結果、平成元年五月八日ころ、新潟市内の料亭で、渡辺元社長、原告、金子前知事の三人の間で、一億円は新潟知事選に使う、残りの本件二億円について原告が新潟の参議院議員補欠選挙用として預かるということで、話が決まったという情報を得た。
(8) 一一月三〇日衆議院予算委員会で、法務省の刑事局長は、前記のとおり、中間報告を行った。
(9) 一二月一九日、第二の記事が掲載された。
(10) 被告の取材体制は司法記者クラブ所属の記者が六、七人、外回り班(いわゆる遊軍)、即ち検察以外のところを回ることを専従とした班の記者が五、六人、新潟支局の取材記者が五、六人であり、これらの取材結果を司法担当デスク(当時三浦)、外回り班担当デスク(当時勝屋)、司法記者クラブのキャップ及び外回り班のキャップの四名が検討し、最終的にはデスクの判断で記事にするというものであり、本件各記事は、花谷、小泉、堀内記者の取材結果を総合して検討し、掲載したものであった。
(二) 以上のような事実が前記各証言によって認められるとした場合に、被告が本件各記事の主要部分を真実と信ずるについて相当の理由があったといえるか検討する。
まず、堀内記者の取材源は、原告の元秘書であるが、同人は、平成四年九月初旬に検察の事情聴取を受けたこと、その後一一月二日までに計六、七回受けたことはあるが、「八九年当時のことは自分は知らない、よく分からないのだ」と検事に答えたということであるので、元秘書の事情聴取の事実をもって、本件各記事の右主要部分が真実であると信ずる根拠とはならない。
次に、花谷記者の取材源は「検察当局ないしその関係者」ということであり、証人三浦、同花谷によれば、「正確に情報を知り得る立場の人」というのであるが、その氏名はもとより、具体的にどのように捜査活動にかかわりを有する人物であるかは、明らかではない。右取材源が「正確に情報を知り得る立場」にあるとの評価は、右のかかわりの具体的吟味を抜きにして、右証人らの評価にのみ依拠して行い得るものではないというほかはない。そうすると、「正確に情報を知り得る立場」にあるか否か明確でない者の提供した情報を真実と信じたとしても、たとえそれが検察当局ないしその関係者からのものであっても、真実と信ずるについて相当の理由があったものと断定することはできない。そして、右の情報が真実であることについて、他の裏付け取材を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
また、小泉記者の取材源は、東京佐川急便関係者ということであり、証人三浦、同小泉によれば、「渡辺元社長が会った人に対して話した内容を正確に知り得る立場の人」というのであるが、これも、その氏名、具体的立場は明らかではない。したがって、同様の理由により、右取材源について右のような評価をすることはできないものというべきである。しかも、本件においては、渡辺元社長は逮捕勾留後、接見禁止が付されていたのであり、少なくとも主任弁護人の赤松幸夫は取材を受けた事実及び本件各記事に掲載された内容について第三者に話した事実を否定している(甲五の二)。これらによれば、右取材源からの情報を信じたとしても、それに相当の理由があったものということはできない。
なお、被告及び右証人らが、取材源を具体的に明らかにしないのは、報道機関として取材源秘匿の要請があることによるものであり、そのこと自体は民事訴訟においても尊重されるべきである。しかしながら、そのことは取材源についての釈明や証言の拒絶等が許容されるという範囲にとどまらざるを得ないのであって、相手方当事者、特に本件のように記事により名誉を害された者の不利益においてその主張、立証の程度を緩和することはできないものといわざるを得ない。
結局本件では、被告が本件各記事の主要部分を真実と信ずるについて相当の理由があったとは認められない。
5 以上によれば、被告は、原告の名誉を毀損する内容である本件各記事を掲載したものであり、免責事由も認められないから、民法七〇九条に基づき、原告に対し、不法行為責任を負う。
二 謝罪広告について
証拠(乙一ないし九、三二、三三)によれば、平成四年九月ころ、東京地検特捜部が本件二億円の流れの解明に関心を寄せており、原告の関係者に事情聴取したこと、当時マスコミは、原告が新潟知事選において県連会長として保守系候補一本化調整に当たったこと等から、本件二億円が原告に渡されたと断定するものではないとしても、原告が本件二億円に関与した疑いが濃厚として、一部匿名で、一部実名で報道しており、原告の社会的評価は既にある程度低下していたこと、第一の記事掲載後も、衆議院予算委員会で、原告が他の議員から本件二億円への関与につき追及を受けていることが認められる。これらの事実を考慮すると、原告の被った損害を回復するためには、慰謝料の支払いをもってすれば足り、謝罪広告の掲載を命ずるまでの必要はないものというべきである。
三 損害の額
以上の事情を総合考慮すると、本件名誉毀損により原告が受けた精神的損害を慰謝すべき賠償金としては、第一の記事につき一〇〇万円、第二の記事につき五〇万円が相当である。
(裁判長裁判官大橋寛明 裁判官田中俊次 裁判官廣瀨典子)
別紙一
一 謝罪広告の内容
当社は、当社発行の毎日新聞平成四年九月一七日付朝刊及び同年一二月一九日付朝刊において、新潟知事選の佐川献金疑惑に関する報道をなし、「二億円は渡辺郵政相側に」とか「二億は渡辺前郵政相側預かり」との記事を掲載しましたが、右記事内容は事実無根で、渡辺秀央氏と佐川献金問題とは無関係であり、渡辺秀央氏の名誉を著しく傷つけるものであり、誠に申し訳ございません。
ここに右訂正をするとともに、渡辺秀央氏に対し深く謝罪するものです。
平成 年月日
株式会社 毎日新聞社
代表取締役 小池唯夫
衆議院議員
渡辺秀央殿
二 掲載条件
① 掲載場所 毎日新聞朝刊社会面下段広告欄
② 枠組 二段抜き、横一九センチメートル
③ 活字 「謝罪広告」の見出し、新聞明朝体、三倍活字
「株式会社毎日新聞、代表取締役小池唯夫」、「衆議院議員渡辺秀央」は、右2.5倍活字、その他は二倍活字
別紙二
三年前の新潟知事選に絡む三億円の裏献金疑惑で未解明の二億円について、元東京佐川急便社長、渡辺広康被告(五八)=特別背任罪で起訴=は「渡辺秀央郵政相(新潟三区)側に渡した」と金子前知事陣営の幹部に話していたことが、十六日、分かった。東京地検特捜部も当時の自民党新潟県連会長の渡辺郵政相周辺などから事情聴取を進め、その中で同様の供述を得ている模様だ。捜査の進展次第で、渡辺郵政相側に政治資金規正法違反の疑いが浮上する可能性が出てきた。
特捜部の調べや関係者によると、佐川急便グループは佐川清元会長の指示で、金子清前知事陣営向けとして計三億円を調達。うち一億円は告示直前の一九八九年五月十日ごろ、東京佐川本社を訪れた金子選対の幹部二人に渡辺被告から手渡された。
金子陣営の関係者によると、知事選当時、残りの二億円は同陣営に入らなかったため、渡辺被告に問い合わせたところ「渡辺県連会長(当時)の方へ渡してある」と説明されたという。
この二億円に関し、渡辺被告は特捜部に「地元選出の参院議員だった故長谷川信元法相に八九年五月二十四日ごろ、東京佐川の本社で渡した」と供述していた。
しかし、佐川急便関係者に渡辺被告は「亡くなった長谷川氏に渡したと言ったが、本当は渡辺氏側に渡した」と語っていたという。
特捜部も、長谷川元法相に二億円が流れた形跡がないため、供述に疑問を持ち、解明を進めてきた。
金子前知事も取り調べに「県連幹部と複数の県議が関与した」と供述したとされ、県連会長は知事選中に渡辺郵政相から近藤元次官房副長官に交代していた。
別紙三
三年前の新潟県知事選に絡み政治資金規正法違反に問われた前知事の金子清被告(六〇)が「東京佐川急便からの三億円の献金のうち二億円は渡辺秀央前郵政相が預かることで話が決まっていた」と関係者に話していたことが十八日、明らかになった。この合意は告示前に金子被告、前郵政相、元東京佐川急便社長の渡辺広康被告(五八)=特別背任罪で公判中=の会談でまとまったという。前郵政相は国会で二億円への関与を否定しており、「二億円」のナゾが解けないまま、二十一日から金子被告の公判が始まる。
関係者によると、一九八九年五月八日ごろ、金子被告、渡辺前郵政相、渡辺被告の三人が新潟市内の料亭で会談。東京佐川から献金の約束があった三億円の使途について話し合った。
金子被告はその後、関係者に「会談では、一億円は知事選に使い、二億円は渡辺前郵政相が(知事選直後の)参院選の選挙資金などのために預かることで話がまとまった」と話したという。
金子陣営の関係者は知事選当時、二億円が陣営に入らなかったため、渡辺被告に問い合わせたところ「渡辺県連会長(当時)の方へ渡してある」と説明されたという。
東京地検特捜部の調べでは、一億円は同年五月十日、金子選対の幹部二人が東京佐川本社で渡辺被告から受け取った。残りの二億円について、渡辺被告は地元選出の参院議員(故人)に渡したと供述したとされるが、その形跡はなかったという。
しかし、渡辺被告からはその後も新たな供述は得られていない模様で立件は困難と見られる。
新潟県選出の社会党国会議員らは今月九日、二億円の行方の解明を求め、政治資金規正法違反容疑で「被疑者は氏名不詳」とする告発を新潟地検に出した。
金子被告と元選対幹部ら三被告の初公判は、二十一日午後一時十分から新潟地裁で開かれる。